とある女性航海士の日常

新米の女性航海士です。高専や船のことなど書きます。コメントは悪意のないものは100%返信しますが乗船のため非常に遅いです笑(半年後くらいかも)

【船ってどうやって動いているの?】~陸上とは違う、操船の特徴とは~

 

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私の実習した練習船日本丸です
私は今、高専商船学科で航海士になるための勉強をしています。
 
そこではやはり船を動かすための勉強というのが主で、苦労しながら知識を身に着けています。船を動かすのって、なかなか想像つかないですよね?
 
では、一体、船を操縦するときはどのような特徴があるのでしょうか?

私がこれまで学んできたことから、船を走らせることの特徴や、どうやって操船しているかについて書いていきたいと思います。

 


しかし、私もまだ航海士ではなく、卵の身ですので、練習船から学んだことを書いていきます。プロの船乗りの方から見ると物足りない面もあるかと思いますが、学生から見るとこんな風なんだと思って温かい目でお付き合いください。
 
 

船という乗り物の特徴


船は、陸上を走る乗り物とは全然特徴が違っています。ですから、それに合わせた操船をしなければなりません。船の特徴には、以下のようなものがあります。

 
  • 船体が大きい
  • 水に浮いているので不安定
  • 外力による影響がある

一つずつ説明していきます。
 
 

船体が大きい


船というのは、規模がとても大きいです。
 
私が乗った練習船110メートルでしたが、海外に行くような会社の船になると船首から船尾まで300メートルにもなります。船内を移動するのまも一苦労です。
 
また、そのくらいの船だと高さも50メートルに登り、ビルの10階くらいの高さになるんです。
私はまだ見学以外で乗ったことがないですが、近い将来はそういう船で働くことになるんだと思います!
 
圧巻ですよね!
 
 

不安定


「しっかり地に足つけて」とよく言います。ラピュタでもシータちゃんがムスカにそんなことを言っていましたが、船はそんな、安定した土台の上を走っている訳ではありません。
 
水の上を動くというのは常に不安定です。波が立てば揺れますし、中に水が入ってくれば沈みます
また、押した分だけ進むというものでもないですし、行きたい方向に向かせることの方が難しかったりします。

地に足つけた、安定した場所とは程遠いです。
 
 

外力による影響


船の浮かぶ海の上は、風や波の影響をダイレクトに受けます。
 
風が吹けば船は揺れますし進路もずれます。
波が荒くなれば破損しやすくなります。
 
しかも、陸上なら大風が吹いたとき行くのを取りやめることもできますが、海の上ではどうしようもありません。なるべく風の弱いところを選んで走ることしかできません。
それによって本来の航路から遠回りをしなければならなかったり、遅れが出たりすることもあります。

自然を相手にするということで、不都合も多いんですね。
 
 
 
また、これ以外にも、船には様々な特徴があります。船というのは特殊な環境なので苦労も多いんですね。
 
では、こういった特徴のある中で、船をどのように動かしているのでしょうか?
船の特徴に合わせた、操船のしかたについて見ていきます。
 
 

船内でのやり取りはトランシーバー


車、あるいは小型船の場合であれば、前や後ろを見るときに、少し首を突き出して見れば状況がわかります。
 
しかし、一般的な商船の場合はその大きさから、船の前や後ろの状況がわかりません。
 
数百メートル前になってしまいますからね。そこで、船首や船尾に人を配置し、船を操船する船橋というところから、トランシーバーで状況を確認します。
 
船首、船尾にいる人は、何か異常や障害物があれば、船橋へトランシーバーで「こういう状況です!」と報告をします。

特に、出入港や、錨をうつときなどは、周囲の見張りにかなり気を遣う必要があるので、状況を船内各所からこまめに船橋に連絡します。そういうときはキャプテンも船橋にいるので、キャプテンへの報告をトランシーバーで行うということですね。

また、船を動かす大きいエンジンを操作している、機関室との連絡もしなければなりません。
そちらは私の乗った練習船では電話を使っていました。何かエンジンに関してやりとりがあれば、船橋にある電話で機関制御室(機関室の隣にある、うるさくない部屋)と連絡が取り合えます。

身近な乗り物で電話やトランシーバーで連絡するのって、なかなかないですよね?
 
 

当て舵をとる


普通の船では、航海士は操舵ハンドルを握りません。
操舵手という、部員さんが航海士の命令を聞いてその通りに舵をとるんです。
 
航海士は見張りをしたり航海計画を立てたりして、船をどのように進めるのか決めるので、操舵は部下の人がやってくれるんです。

舵をとるときなんですが、通常は「右に5度舵をきって」か「130度の方向で一定にして」というような命令をします。特に、海外へ行く外航船ではこれは英語であり、操舵の指示のしかたというのが明確に決まっています。練習船でもそれに沿って実習をします。
また機会があればこの操舵号令についても書きたいと思います。

さて、ここで、目当ての針路に向けるときの注意点です。
 
船は、水の上を走っているので、ハンドルをひねれば目当ての方向に向くというものではありません。
ハンドルをまっすぐに向けても、それまで曲がっていた流れが簡単に止まる訳でもなく、惰性で曲がり続けます!これを物理の用語で慣性といいます。
 
水の上ではそう簡単に止まれないんです!
 
つまり、舵をきり、目当ての針路を向いたことろで真ん中に戻しても、時すでに遅し、目当ての針路を追い抜いて、どんどん曲がっていき、曲がりすぎてしまうんです
 
そこで、目当ての針路の少し前に、操舵ハンドルを真ん中に戻します。行き過ぎを防ぐためですね。
しかし、回転のスピードが徐々に遅くなり、その後止まるのを待っていては、時間がかかりすぎてしまいますよね?
 
そこで、操舵のテクニック(?)として、目当ての針路に近づいたら、逆方向に舵をきってあげるというやり方があります。
 
つまり、それまで右に曲げるために右に舵をきっていたのを、目標針路に近づいたところで、舵を左にきるんです。
こうすることで、短時間で目標針路に向けることもできるし、右に曲がりするのを抑制することもできます。この、逆方向に舵をきることを当て舵と言います。

これが車などであれば水に浮いている訳ではないので、惰性で曲がって行ったりせず、向けたい方向にハンドルで簡単に向けることができるかと思います。
あえて、行きすぎないように逆方向にハンドルを回すということもないんじゃないでしょうか?
 
実は、私は小型船舶操縦士の免許も無線通信士の免許も持っていて、海技士の免状も卒業したら取る予定なのに、自動車の免許は持っていないんです。だから正直、車だとどう違うのかとかさっぱりなんですけどね!(笑)
知りもせずにすみません!

しかし、私の大好きなアニメ、「カーズ」では、すごいおじいちゃんがマックイーンに「曲がるのと逆方向にハンドルをきれ!」みたいなことを言っていたので、ともすると自動車にも当て舵はあるのかもしれません(笑)

ここで、変針(方向を変えること)の手順の例を書いておきます。今回は、0度(北)から90度(東)に変針するという設定でやっていきますね。

 
  1. 0度に向かって走っています。90度は右になるので、右に10度舵をきります。
  2. 右に徐々に曲がっていきます。10度、20度…と、船の船首方位が変わっていきます。
  3. 80度になったとき、舵を真ん中に戻します。しかし、右に曲がる勢いがついてしまっているので、今度は舵を左に10度きります。(当て舵
  4. それまでの右に曲がる惰性が、左へきった舵の力で相殺されて、早く船が止まります。
  5. 舵を左から真ん中に戻します。このとき、さっさと戻さないと、今度は左に曲がっていってしまいます。
  6. 微調整をして、なるべく早く針路を90度にし、走ります。

とまあ、簡単にいうとこんな流れです。ちなみにここに出てくる数字は適当なので、きる舵の10度とかって数字はその船によります。また、舵をきってから曲がり始めるまでの時間も、それぞれの船により異なります。
 
 

風や波の影響を考えて航海計画を立てる


船は常に自然と隣り合わせですので、風や波の影響をダイレクトに受けます

船は大きく、海上に出ている面積が広いので、空気抵抗や風を受けると減速につながります。

また、波も、月からの引力によって起きている、普通の波に加えて、風が吹くと風によって波が起こります(風浪)。風が吹いてくるのと同じ方向から波も強い力で押してきます。

ですから、航海士は、これらの影響を考えて航海計画を立てなければいけません。

例えば、右から強風を受けている場合は、舵を目標針路に合わせていたとしても、船は左に流されますよね?
 
実際はそんな単純ではなく、船は風の吹いてくる方向に船首が向くという特性もあるので、速度や船の性能にもよるのですが、今回はわかりやすく風と波に流されている状況を想定します。

まず、0度(北)の方向に進もうとしているとします。
このとき、風、波の影響によって左に流されて行っているとしたら、舵は0度に合わせていても、実際はそれよりも左方向の355度に走っているかもしれません。
そこで、今ではレーダーという便利な計器があるので、そこから「左に5度ずれている」とわかる訳です。
 
レーダーでは「船の船首方向」と「船の動いている方向」というのがわかるので、そこから比較して、「舵は0度なのに船はそっちに動いていないな」とわかるんです。
 
左に5度流されるんだとわかったということで、本当は0度に進みたいので、舵を今度は右に5度とってあげるんです。
 
こうして、あらかじめ流される前提で対策しておくわけですね。しかし、流される角度は時間によって変わってくるので、こまめに確認してずれが大きくならないようにしないといけません。これでは本当は0度に進みたいのに5度にしたまま走っている訳ですからね。

では、今回も針路0度方向に進もうとしているときに、外力によって355度へ走ってしまっている前提で流れを書いていきたいと思います。

 
  1. 舵を、船が0度を向くように合わせておく。右からの外力で、船が5度左に流されて、355度で走っている。
  2. レーダーで、左に5度流されていることを知る。
  3. 航海士が船を5度に向けるように指示を出し、操舵手が針路が5度になるようにハンドルを操作する。
  4. 船が5度を向き、結果的に0度方向に進行する。
  5. 流され方の状態を見て、針路を調節する。

もちろんこれも実際はそんなに単純ではありません。角度だって今は適当ですし、流された分を戻すことも考えて方位設定をしなくてはいけないので簡単にはいかないんですが、わかりやすく簡単な数字にしています。

また、左右に流されないとしても、風や波が強くなってくると、抵抗になりスピードが落ちてしまいます。ただでさえ水の抵抗というのは大きいのに、風で逆方向に押されたら進むのにとても苦労します。
 
 
 
 
こういう感じで、船を操船しています。
 
船は水の抵抗があったり惰性があったりと、陸上とは違う動きをします。陸上でまっすぐ進むのとは方法も異なりますし、難しいんですね。
だから、航海士になるには私たちのように商船学科で勉強して知識をつけることや、長い経験を積むことが必要なんです。
 

この記事から、船を走らせるときの特徴や、操船のしかたなどを少しでも知っていただければ嬉しいです。私自身、まだ航海士の卵で、これから経験を積まなければいけない立場ですので、えらそうなことは言えませんが、また精進していきたいと思います。
 
最後までお読みいただきありがとうございました。