とある女性航海士の日常

新米の女性航海士です。高専や船のことなど書きます。コメントは悪意のないものは100%返信しますが乗船のため非常に遅いです笑(半年後くらいかも)

【レーダーシュミレーター体験記】~陸上でできる操船体験~

f:id:towaru-jk:20200428113657j:plainはい。私の半年実習もやはりというか、延期になってしまいましたので、当初の予定より多く、もう少し記事を書こうと思います。

乗船実習では日本全国から学生が集まり、閉鎖された船内で過ごすので、この状況では延期が当然だと思います。こればかりは誰がどうすることもできないものなので、収束を待つしかありませんね。

今回は私の学校にある、レーダーシュミレーターという疑似操船ができる装置についてです。
 

 前回の記事について


その前に少し、前回の記事(
【日本丸の元実習生が語る】乗船実習で受けた理不尽~練習船内部の実態~ - とある女性航海士(卵)の日常)について。やはり、多くの反響がありましたね。
 
内容的に、いつもより多くの方に見られるかと思っていたのですが、私の予想以上にたくさんの人にご覧いただいたみたいでびっくりです。
驚いたのは、現役の船乗りの方でも「その気持ち、わかるわー」と共感してくださる方が多かったこと。個人的には、現役で働いてる方は、みんな「オレらの時代はこうだったんだからこれからもこれが正しいんだ!!」みたいな方ばかりかと思っていたので意外でした。だめですね、先入観にとらわれていては。
 
Twitterなどでご意見やいいねをくださった方々、ありがとうございました。本当なら一人一人ご挨拶すべきところですが、そんな数でもなかったのでこのままで失礼します。特に、ブログの方に大変丁寧な感想をいただいたるん様、前回の記事の下に返信コメントだけ書かせていただいたのでよろしければご覧ください。それ以外にも感謝なことに多くの船乗りの先輩からの貴重なコメントをブログにいただきましたので、興味のある方は前回の記事下コメントをご覧くださいね。

まあでも、いろんな意見の方がいますよね。それは当然です。
誤解のないように言っておくと、私は「実習つらいからやめたい・船を降りたい」とは思っていません。私は「客観的に見ても目的がわからない実習は別の内容にするか、実習生が理解できるように目的を伝えてほしい・実習生への過度な負担はやめてほしい」と思っています。
それは別に文句を言うためではなく、目的を示してもらった方が「何のためかは教えられんがとりあえずやれ」と言われるより、目指すところが実習生にとってもハッキリして実習効率も上がると思うからです。
 
今、特に一部の内航船では、若い船乗りの離職率の高さや定着しないことが問題だそうです。もちろん「ちょっとつらかったらやめる」みたいな若者が世の中にいることも否定はしませんが、全ての若者がそうではないんです。やる気がある人も大勢いますよ。
 
技術や知識面では先代の船乗りの方から学ぶことしかないと思いますが、一方で若い人たちの方がずっと未来まで船業界にいるんです。これから仕事をしていく世代の人たちなので、いずれ、制度とか仕組みがこれまでと全く同じとはいかなくなるのでしょう。近年の自動化のように、嫌でも時代に合わせて変わっていくものなんです。気に入らないからという理由だけで今まで通りやれと言われても、それは無理というものでしょう。
そりゃ私が「船の上だとネットが繋がらないから理不尽だ」「スペースが少なくて理不尽だ」なんて言ってたら船乗りに向いてないとか言われても仕方ないとは思いますが…。変えられるものと変えてはいけないものってありますよね?
 
実際、私の知る限り「急に課業が増えても嫌じゃないし、実習に無駄なんてあるとは思えないし、甲板流しは喜んでやるし、今の練習船のやり方に何の疑問も持っていない」なんて学生は周りにいませんし、いたとしても一つの船に一人とか二人ですね。そういう学生だけ選んで一緒に船に乗ろうと思ったら、見つけるのはかなり難しいと思いますよ。みんな仲間内でしか口にしませんが、おかしいとは思ってますからね。かつての考え方はどうだったのか知りませんが、今はもうそれが現実なんで、「こういう考え方のやつは来るな」と言われたら、お互いに選択肢が狭まるだろうなとは思います。
 
けど、みんなやっぱり船に乗りたいという気持ちがあるから「あれ、なんかちょっとおかしい?」と思ってもやってるんですよ。練習船の教官は頼れる人も時々いるけど、普通学生くらいの年代だと親にはなかなか話せないし、学校の教官には言っても解決しないし(そもそもうちの学校の教官が海技教育機構に抗議したけど全然聞く耳持たれなかったって言ってる)、結局学生同士で慰め合ってあとはため込むしかないんですよね。

私が言うのはおこがましいですが、年齢だけで何でも頭ごなしに退けるのではなく、若い方の話だけでも聞いてみられると何を考えているかわかってもらえると思います。要望とか叶える叶えないは全く別として、意見を聞くだけ聞いてみられてはどうでしょうか。
コミュニケーションにも繋がりますしね。一方通行で押し付けられるばかりだとやりがいだってなくなるでしょうし。
「最近の若い者の考え方は気に食わん」とはねのけてばかりで一歩の譲歩もしないと未来を託す相手がいなくなりますよ?まあ、私の意見なので生意気なこと言って気分を害された方はすみません。

ただ、こういったことに関しても、上記のるん様がしっかり解決策をご提案くださいました。理不尽だと感じたことがあれば自分が変えればいい、ということでした。確かにそうですよね!若い時に自分でおかしいと思ったことは、将来自分が人の上に立ったときにそうならないように変えればいいんですから、人にどうこう言う前にそれが一番いい方法なのかなと思います。

そうそう、それと共に報告なのですが、乗船時の服装について私の担任の教官から女子学生にメールがありました。ネットで調べたらメールをそのままコピペしたらよくないらしいので端的に書くと、

 
  • JMETSから制服についての連絡があった
  • 女子の乗船時の学校制服はパンツスタイルで
  • もし制服が小さくなって着られなかったり、親が捨ててしまったりした場合であっても、借りるか再度購入するかして何とか準備してズボンで乗船と念押しされた
だそうです。

いや、うちらもうすぐ卒業で学校行かないのに再度購入って正気か!?と思いましたけどね。(あ、もちろんこれはお世話になった担任の教官に対して言ってるわけではありません)
 
私の前回の記事をきちんとお読みいただければわかると思うんですが、スカートが危険かどうかなんてことは言っていません。そんなことは全く問題にしていません。前も書いた通り、せめて全部の学校で強制的にパンツスタイルならわからなくもないんですよ。けど、乗船したらどうせうちの学校だけじゃないですか、ズボンで来てるの!!

ただ、これに関してはいくつか情報をいただきまして、保護者の方からクレームがあった、ようなんです(情報ありがとうございました)

しかし、だとしても一校にだけこれを適用するって明らかにおかしいことですよね?そっちのクレームは聞いて、使いもしない高いズボンに出費しなければならないうちの学校の学生や教官からのクレームっていうのは聞いてもらえないんでしょうか?あと半年で、乗船実習中2回くらいしか使わないだろうに買わされるとか、学生の立場も考えてほしいです。
他校はスカートでいいのに一校だけ差別してズボンを買わせることにこだわるのがそんなに大事なのか。大いに疑問です。

ただ、前回の記事はあくまで学生の立場である私が書いたものですので、その時感じたことそのままな部分が大きいです。数十年後には、日本丸大変だったけど学生時代だけの思い出ってなってるかもしれませんし、そこはわかりません。

まあ、ズボンに関してだけはどう客観的に見ても理不尽すぎるので後輩のためにも早急にどうにかしてほしいですけど。

さて、前回のことばっかり書いていても何なので、今回の記事の方に行きますね。
 
 

レーダーシュミレーターとは


商船高専には、船の勉強のためのいろいろな設備が整えられています。普通の高専でも、各学科の専門分野に合わせた機械や充実した設備があるものですが、中でも商船学科には、船に関係する珍しい設備があります。
 
その一つに、レーダーシュミレーターというものがあります。名前の通りなのですが、自分が操船しているかのような体験ができ、学校の中で船で操船する感覚を味わうことができる仕組みなのです。

レーダーシュミレーターは、簡単に言うと、船橋を陸上に再現した、という感じです。船橋というのは、船を動かす場所で、航海士がいるところですね。前方には船橋から見た海の風景があり、操船するとそれに対応して画面が動きます。画面の前には、船橋と同様にテレグラフ(速度を調節する)や操舵ハンドル(行き先を調節する)があり、実物にかなり近い感覚で操作できます。

また、画面には、手動で操作した動きだけでなく、シュミレーター自体を設定するメインのパソコンからの操作も反映されます。
メインのパソコンから変えられるのは、例えば、風速や周囲の状況、船の数などですね。このメインのパソコンは教官が動かしていて、学生が操船のシュミレーションをしている最中に勝手に波の高さを変えたり周囲の時間帯を変えたりしてきます(笑)
 
まあ、文章で書いててもわかりづらいと思うので、ネットで「レーダーシュミレーター」と画像検索してみてください。あるいは「操船シュミレーター」の方がわかりやすいかもしれません。その方が一般的でしょうか。
出てきた画像、そんな感じをイメージしてもらえればいいかと思います。

f:id:towaru-jk:20200428113525j:plain

調べたらフリー素材でありました、これは飛行機のみたいですけど
天気が悪くても操船の練習ができるところや、波や周囲の状況をリアルに設定できるところ、失敗しても大丈夫なところが利点ですね。

あ、初めに書いておきますが、この記事はあくまで体験記ですので主観でしかありません。シュミレーターの詳しい説明とか設備についての内容ではありませんのでご了承を。

最近、お家で自粛されている方も多いと思いますので、こんな記事でも時間潰しになれば幸いです。
 
 

本校のレーダーシュミレーター


私の高専にもレーダーシュミレーターがあります。私の学校には、2つの操舵スタンドと画面があり、別々のシュミレーションを並行して行うことができます。
 
本当に会社で使われているシュミレーターを見学させていただいた時は、360度の画面で、後ろまで見えて、本当に船に乗っているようなシュミレーターでした。しかし、私の学校にあるのはそこまでのものではなく、画面は前方だけです。とはいえ、動きもリアルだし、学生が実習するには十分なクオリティです。
シュミレーターを買うには何千万円もする(教官談)そうで、さすが国立高専の設備といったところでしょうか。うちの学生がその価値を感じているかは甚だ疑問ですが…(笑)

さて。では、私の高専ではどういうタイミングでレーダーシュミレーターを使うのかについて紹介します。

まずはなんと、中学生で。
オープンキャンパスに来た中学生にレーダーシュミレーターを実際に触ってもらうという体験があるんです。ですから中学生のみなさん、ぜひ操船体験がしたければお近くの商船学科にオープンキャンパスについてお問い合わせくださいね。ちなみに、オープンキャンパスに来る中学生は3年生が多かったですが、2年生もたまにいるようです。えらいですよね、そんなに若い時から興味のある学校を見学に行くなんて。

とはいえ、中学生の体験なので、そんなにちゃんとしたことはしません。やることはとりあえず触ってみようくらいです。船を動かすのはこんな感じなんだよ、景色動くね、っていう体験です。もちろん初めての体験なのでよくわからずにとりあえず操舵ハンドルを握り、動かしているだけです。でも、いろんな設定ができて本格的な訓練もできるようなシュミレーターなんですが、ハンドルを回すと曲がるっていう基本的な動きなので中学生にも体験しやすいですよね。
そのとき、私たち在校生は教えつつ中学生を見守っています。
 
まあ、中学生のオープンキャンパスでやるのは本当に導入程度ですよね。

では、在学してから本格的にやるのはいつからかというと、うちの学校では3年生くらいからですね。実験実習という、ECDIS(電子海図)とか消化器具とかいろいろ触って実習するという授業があり、そこでレーダーシュミレーターも使われます。で、いろいろなところを擬似的に航行してみようというわけです。
あとは、外でやる実習とか航海の予定が天気でできなくなったときにも「じゃあこっちで」みたいな感じて使われますね、屋内なので。だから、けっこう、体験した記憶は多かったです。高学年になると時間つぶしでレーダーシュミレーターやろうかーってなることも多いです。そんな風に便利に使われていますね。

ですので、うちの学校の学生たちはちょっとやるとマンネリ化してきます。天候悪くなると、ハイハイまたシュミレーターなのね、みたいな(笑)
しかも、もともと私の高専あまり船に対して貪欲な雰囲気ではありません。勉強できることより休みになった方が嬉しいみたいな学生が多いです。もちろん船がすごく好きな学生もいますよ。
しかし、乗船実習でほかの高専の学生と会ったとき、私個人的には自分の学校との違いというか意識の高さに驚きました。他の商船学科の人はみんな自分から手を出していて船の勉強に積極的で、正直自分の学校とは全然違うなと思いました。私の学年だけなのかもしれませんが、うちの高専にはあんまり船の勉強をしたい!って雰囲気はないですね。

そういう訳で、せっかくのレーダーシュミレーターに取り組む姿勢もみんな不真面目というか、なんかほぼゲーム感覚になってしまっているのが私の学校です。
 
 

普段の実習


授業を始めたばかりの頃は、基本的にそんなに難しい操船はしませんでした。
 
レーダーシュミレーターの設定ではパソコンからいろんな航路を選ぶことができるので、自分の学校の近くの航路を選んでとりあえずまっすぐ走って航路から出る、みたいなものや、教官が出現させた船を避航するシュミレーション、あとは教官が高い波を設定するのでそれで走りにくい中を航行してみる、とかってことをしてました。全ての設定は教官の裁量次第でしたね(笑)

船の種類もいろいろあるんです。
画面には普通の船橋のように船首が写されます。それで自分がどんな船に乗っている設定かわかるんですが、学校の練習船なこともあれば、コンテナ船のこともあります。だから、船首を見て「あ、今回はこれだ」みたいになります。っていうか今思ったんですけど、画像がないと文字だけでこうやって書いてもイメージが難しいですね(笑)
画像があればいいのにと思います。

私たち学生は操舵役とキャプテン役を一人ずつ決めて、それを順番に回していました。ここは実際の船橋と同じでして、キャプテン役の人が画面を見張り、操舵役の人は言われた通りに操船して、物標をよけます。
ではシュミレーターが二台しかないのでそれ以外の多くの学生はどうしているのか。人の操船を見るようにと言われていますが、もちろんそんなことはしません(笑)
みんな、おしゃべりしてるやら自分の好きなことするやらシュミレーターの無線でもう一つのシュミレーターに連絡するやらすさまじいです。この無線は、2つのシュミレーターに一つずつ本物に似たものがついていて、お互いにだけ通信ができます。
 
無線でやりとりならまだいいんですが、中には相手のシュミレーターの方に画面を見に行く人もいます。同じ部屋ですが、設定上は2つのシュミレーターは別の船を動かしていることになっていますから、そういう学生たちは「海を越えて来たよー」って言ってます。ユーモアのセンスありますよね(笑)
 
緩いですからねー、教官も放置みたいな感じです。まあ和気あいあいとしてるんで、いい意味でですけどね。

さて、そんな感じで映像がリアルなシュミレーターの画面で操船をしていくんですが、もちろん失敗することもあります(大半は)。
ほかの船にぶつかったり事故が起こったらその瞬間、画面が停止して続行できるくなるんです。わかりやすく言うと、テレビゲームでゲームオーバーになるみたいな感じです。だから事故を起こしてしまったらそこで終わりです。上に書いたような実習態度なので、うちのクラスではぶつけるエンドはしょっちゅうでした!あってはならないことですけどね…。
 
 

浦賀水道航路


さて、ここからは、私が記憶している一つ一つの体験について細かく書いていきたいと思います。

これは、浦賀水道航路を走るシュミレーションをしたときの話です。
普段はロクな取り組み方をしていなかった私たちですが、このときは教官から全員でしっかり最後まで航行するように言われて、珍しく真面目に走った記憶があります。当時はまだ3年生くらいだったでしょうか?まあ、昔の話です。

浦賀水道航路は首都の東京にもつながっている航路で、当然有名です。どれくらい有名かっていうと、海技教育機構の教官が「みんな大阪って知ってるだろ?船乗りで中ノ瀬を知らないっていうのは日本人で大阪を知らないのと同じことだ」と言っていました。それくらい有名だということです。わかりやすいですよね!あ、中ノ瀬というのは浦賀水道航路と接している地名です。
 
さてところが、当時の私たちには全く未知の世界です。自分の学校で実習をする範囲ではないので、航路もほとんど見たこともないと言っていいくらいです。普段は自分の学校の周りの航路ばかりシュミレーターで映していましたが、このときは全く知らない航路が映っていました。あ、厳密に言えば、一ヶ月の実習で通ったことはあるはずなので初見ということはなかったんですが、一ヶ月の実習ではそんなにすることも多くないですし、実際は初めてみたいなもんです。

まあそんな感じで、航海士の教官の一存により、私たちは超真面目浦賀水道航路を走るシュミレーションをすることになりました。あんなに真剣に全員でシュミレーターに取り組んだ記憶は、後にも先にもあれが最後ですかね(笑)

そうして浦賀水道航路でのシュミレーションが始まったのですが、なんと、画面が暗かったんです。そう、教官が夜に航行しているという設定にしていたんです!初めての学生に夜ってなかなかハードですよね!それでもスタートしてからは何とか航路標識を頼りに進んで行きました。
 
班のみんなで「あっちに赤い光があるからどーだ」とか「ここが航路だからこーだ」とか言い合って、航路を進んでいきました。いやあ、しっかり実習をしている、という雰囲気でしたね。そのほかにもシュミレーターに対応したレーダーやチャート(海図)も用意されていたのでレーダーで見て陸にぶつからないようにとかみんなで話し合いながらやりました。
ちなみに、私たちの班は南下していたので、航路から外に出る設定でした。二つあるシュミレーターのうち、もう一つの台は逆で、もう一つの班は私たちとすれ違う設定の船を操船していました。「おそらくこの2つの航路標識の間が航路だろう」と当たりをつけて標識の間を通るようにしました。あ、航路標識というのは航路にある光る目印のことです。

ですが、最終的には前の船について行くのが一番いいという結論に至りました(笑)
まあ、学生ですし、それが早い方法でしたね。自分たちで全部やるということで、教官もほとんど口を出さずに見守っていました。陸岸の景色が暗かったこともあるのですが、慣れない航路で全くどこなのかわからなかったです。

前の船についていくと言ったって、そう簡単ではありませんでした。針路もブレるし航路から出そうになるしスピードも前にも後ろにもぶつからないようにしないといけないし…。何度か航路から逸れそうになって慌てて戻したりしてました。それでも自分たちではちゃんと航路を走っている、つもりだったんです。

私たちが一定の針路と速度で何とか走ろうとしていた矢先、左後方から船が割り込んで来たんです!まあ夜なんで、目に入ったのは船ではなく航海灯なんですが、ぶつかるくらいの至近距離でした。
私の班員はみんなして「何割り込んで来てんだよ!」「ぶつかるぶつかる!」「何だこの船!!」などと叫んで抗議しました。まあ、設定の通り画面に映ってるだけの船なので当然伝わらないんですけど(笑)
その船は本当に私たちの操縦する船すれすれのところに来たので、今にもぶつかるかというところでした!私たちは慌ててぶつからないように何とか右に舵を切って避けることができました。いきなり左から船が出てきて、みんな本当にびっくりしたんです。

シュミレーションが終わってからみんな教官に文句を言いました。「何なんですかあの船は!」「突然出てきてぶつかってくるなんて!」と教官に詰め寄ったんですよね(笑)みんな、学校の教官と仲がいいものですから。
 
シュミレーターでは、船が走った航跡を画像で見ることができました。教官がそれを私たちに印刷して見せてくれたのですが、それを見て私たちはもう笑ってしまいました。
 
航跡の図を見ると、他船はみんな設定どおりきれいに一定の針路で走っていたのに、私たちの船は航路から大きく逸れてフラフラ走っていた上に、航路に右から入り込もうとしていたんですそこに、航路を走っている別の船がいてぶつかりそうになっていたという感じでした。あれでは左にいた船は本当に怖かったでしょうね…。
 
教官からは、「浦賀水道航路っていうと、本当は船がこれとは比べ物にならないくらいたくさんいて、ジャイロコンパスの針が一回カチってなっただけでも操舵手はキャプテンににらまれるような航路なの。それくらいみんな気を引き締めて、一定針路の12ノットで走ってるのよ。それなのにあんたたちは何?航路の外から入ってきて邪魔だからよけろなんて!通報されるよ」と言われて、私たちは何も言い逃れできませんでした。いや、本当は笑っちゃいけないんですけど、あれは苦笑するしかなかったです。私たちの見当違いといったら!

そんな感じで、初めて本気で取り組んだにも関わらず、私たちのシュミレーションの結果はさんざんでしたね(もう一つの、航路内に入ってこようとしていた班も私たちよりだいぶ前にゲームオーバーになっていたようです)
 
ですが、自分たちのレベルもわかり、全員で真剣に針路を考えていたという意味で、強く印象に残っています。
 
 

来島海峡航路


続いて私が覚えている体験は、来島海峡航路を航行したときのシュミレーションです。
 
この来島海峡航路というのは、東京近くの浦賀水道航路とうって変わり、瀬戸内の方にある航路ですね。さて、この航路も実は私たちのクラスは見たこともなかったので、まあ、未知との遭遇でした(笑)
 
何でシュミレーションがこの航路になったのかっていうと、教官がどの航路でもいいから走る航路を決めろといったらクラスの男子が「来島海峡航路!」と言ったので鶴の一声で即決しました。その男子が行ったこともない来島海峡航路の名前を知っていたのは、海技士の筆記の勉強で出てきたからなのでしょう。

話は逸れますが、私たち商船学科生は、三級海技士という資格を卒業と同時にかなり容易に取れるので、学生の時にはその上の級、二級海技士から勉強するんです。といっても免状自体をもらうのには履歴とかいろいろ必要なので、学生のうちには筆記試験だけ取っておくというやり方なのですが、けっこうこの筆記試験が就活の時に必要になったりします。ちょうど3年生くらいなら、みんな二級の筆記を取ろうと頑張って勉強している時期ですね。
 
ところで、この筆記試験なんですが、まだ学生の私たちには試験の内容を全部理解できるわけではありません。そこで、高専の学生が海技士をとるときは、ほぼ丸暗記というやり方をとります。みんな海技士の筆記試験を必死にやって覚えるんですが、試験に受かれば常識以外のほとんどの問題はすぐに忘れます
以前はどうやって勉強していたのか知りませんが、教官いわく「最近の頭のいい学生は船のことを知らなくても暗記だけで海技士を取ってくる。だから筆記試験の取得が若年化している」だそうです。
 
その傾向は強く、航路の名前とか船の設備も見たこともないような航路をただ暗記だけで覚えてるんです。何の予備知識があるわけでもなく、ただ問題と答え詰め込んで終わったら忘れるというのが私のクラスの海技士のやり方でした。
一年の実習を3回に分けるようになってから、今はそういう勉強法の高専生が多いんじゃないでしょうか。丸暗記のやり方がいいのかどうかはわかりませんが、それでみんな筆記試験は取れるんですよね。
 
まあそれで、そのクラスメートは行ったこともない来島海峡航路を海技士で名前だけ覚えていたからとりあえず言ってみて、教官も普通にOKして決まった感じです。とはいえ、教官も私たちが見たこともないっていうのは知っているので、ちゃんと解説はしてくれました。記憶に残っているのをざっと要約するとこんな感じです。

来島海峡航路には中水道と西水道という2つの航路があるんですが、潮の流れによってどっちを走るかが変わります。潮と同じ方向に航行していたら中水道、流れに逆らって航行していたら西水道を走るという決まりです。舵は、前から流れを受けたほうが舵効きがよく、曲がりやすいです。西水道の方がカーブがより急で、後ろから波を受けて舵効きがよくない中で走ると曲がりづらくて危ないので、このように潮流の方向によって2つの水道でわけている。

…ということだそうです。これを「順中逆西」というんですが(そのままですね)、これもたまに海技士試験に出てきます。まあみんな航路名から何から丸暗記なんですけどね。
でも、あのとき丸暗記だったことの仕組みがこういうことって、ちゃんと理由があるんですよね。こういう覚え方ができればより記憶に残りやすいと思うんですが、いかんせん、さっきも書いたように多くの人はそのときだけ書ければいいっていうスタンスでやっています(笑)そしてすぐ忘れる。

初見の航路、来島海峡航路航路なんですが、やはり画面に映ってもみんな「どこ??」という感じでした。見たこともない風景が映されていますからね。しかしありがたいことに今回は明るい昼の設定でした(笑)
 
とりあえず見て思ったことは、景色がきれいっていうことと、陸が近いことですね。後で海技士の勉強をしたときにも出てきたのですが、本当に色んな名前の島がたくさんあって両側を陸に挟まれている感じ。学生なのでそんなに詳しいことはわからないんですが、だだっ広い海しかない自分の学校の練習船の海域と比べて、これなら海技士の問題に出される航路になるのもわかるなと感じました。

それで、シュミレーターで操船を始めたんですが、まず、さっき教官が話していた順潮と逆潮の違いがわからない。
舵を持ちながら「自分たちどっちに行ったらいいのかわかんないでーす!」と言ったら、どうやら信号所を見るようなんです。しかし、あのときは教官が特別に教えてくれた気がします。肝心のどっちの水道だったかは忘れましたが。
 
2つの水道の真ん中に馬島という島があり、そこで左右に分かれるようになっているんです。でも私たちはそもそも左右どっちに行ったらいいかわからず、「どうしたらいいの?!」状態をずっと繰り返していました。よかったことに、島にはぶつからずなんとかなりました。ただ、ちゃんと正しい航路を選べたのかどうかは覚えていません。

実はこのエピソードには後日談があり、私が4年生の5ヶ月実習に行った時のこと。広島から神戸に行く航海だったでしょうか。来島海峡航路を通ることになったんですね。
その実習では備讃瀬戸の航路とか、関門の航路とか、それまで海技士の試験で名前しか知らなかった航路をいくつも通っていて、来島海峡航路もその中の一つだったんですよね。航行するのも近くを通るのも初めてだったんです。
 
名前は知っているけど見たことはない航路をこんなところもあるのかーと思いながらなんとなく航行していました。その航海も知らない航路をただ見るだけなのかなと思っていたんですよ。でも違いました。
来島海峡航路に差し掛かってみると、来たことはないはずなのに見覚えのある景色が広がっていたんですよ。前に馬島があって、両側も陸に挟まれて。しかも航行している方向も全く同じ。何でこんなに見たことがあるんだろうって不思議に思ったんですよ。俗に言う、デジャヴというやつですね。でもすぐにわかりました。以前、レーダーシュミレーターでやっていたのと同じ景色だったから知っていたんですね。改めて、シュミレーターの再現度がすごいと思いました。

馬島と、そこにかかっている橋など、シュミレーターと同じだったのですが、それに加えてやはり実際は陸にある信号もちゃんと見られたし、航路も最後まで走り抜いたし、シュミレーションにさらに被せて実習で経験できたという感じですね。にしても、本当に島が多くて、私の高専練習船の航行範囲では考えられません。天気がよかったので近くの陸岸の景色もよりきれいでしたし。

シュミレーターで見たものが実際になるという、初めての経験で感動でした。
 
 

ウィリアムソンターン


このシュミレーションはこれまでとは違い、海域は自分の学校周りですが、操船することをメインで行いました。

内容は、航海コースの中でペアを組み、ウィリアムソンターンの練習です。

ウィリアムソンターンというのは、人が船から落ちて救助をするときの操船方法です。
ほかにも、シングルターンなど、いくつかの操船方法がありまして、先程書いた、海技士の筆記試験に、図示しなさいというような問題がよく出てきます。
私も二級海技士の筆記試験の際に出されたような気がします…。いくつかの救助操船の中でも、ウィリアムソンターンは特に複雑に感じますね。

それぞれの救助のための操船について、詳しくはネットで調べれば図付きで出てくると思うので、それを見てください!(笑)
簡単に言うとどれも、航海中に人が海に落ちたとき、進んでしまったところからターンして落ちたスポットまで戻るための方法です。まあ、もちろん使う状況に陥らないことが一番です。

このシュミレーションについては、そんなに読んで面白い内容でもないと思うんですが、比較的記憶に残っていたのでついでに書きます(笑)

実船だと学生はなかなかできないこういう救助操船の練習も、シュミレーターなら気軽にできていいですね。実を言うと、学校の練習船でもブイを落として救助操船の実習をしたことが一回だけあったのですが、それは今は書きません。結果だけ言うと、実船では全然ブイの近くにも行けませんでした。やはり難しいですね。

クラスメートとペアを組み、ターンの練習をするという内容でしたね。
うちのクラスは船の勉強に全然真面目じゃないって書いたんですけど、私がペアになったのは本当に数少ない例外の、船の勉強をするのが好き!というような男の子でした。私のクラスの中ではレアなタイプですね。そういう、自分から熱心に勉強する人ももちろん少しはいます。(しかし徐々に高専のカラーに染まっていく…)

ペアの人とはキャプテン役と操舵手役を決め、協力してターンをしていきます。本来だったらキャプテンだけが指示をする役なんですが、学生同士なので操舵手も全然口を出し、操船していきます。私たちの組は、その男の子がキャプテン、私が操舵手の役になりました。二人でどこで舵を切って何度ぐらいで走るかっていう打ち合わせは一応シュミレーションを始める前にしていました。

ほかのみんなは操船しながら操舵手が「そろそろ舵切った方がいいんじゃない?」とかいろいろ言って、アワアワしながらペアでやっていました。
でも、私たちはその男の子がスムーズすぎたので、私は言われた通りに舵を動かすだけでした(笑)
何しろ打ち合わせ通りでしたし、シュミレーターの波もない設定だったし、彼はウィリアムソンターンが頭に入っていたようで、適切なタイミングで操舵号令を出してくれました。私のしたことといったら、何も考えずに「はいは〜い」とハンドルを回すだけ。でも見ていて勉強になりましたね。

そうそう、書くのがこんな最後になってしまったんですが…。シュミレーターの画面があるのは前方だけなんですが、そこに左右や後方の様子も映すことができるんですよ。だから、そういったシステムも駆使して、全方向を見張りながら操船していました。

浦賀水道航路のところでも書きましたが、シュミレーターには自分が通った航跡を印刷できるシステムがあります。みんな、自分たちの回のターンを印刷してもらっていました。
多くのペアはきれいな円からはみ出したりおかしな方向へ行ってしまったりしていて、なかなかうまくいっていませんでした。でも、その中で私たちのペアは、きれいな円を描いてからもとの針路に戻っており、まるで教科書に出てくるような航跡でした(それは言い過ぎですが笑)
 
クラスメートも「そっちのペアの結果、すごいね!」と褒めてくれました。ほぼ、相方の彼の腕だったんですけどね。とはいえ、ちょっと嬉しかったのでいまだに覚えています。
 
 
 
 
 
さて、長くなってしまいましたが、私の記憶にあるシュミレーター実習については以上です。

今まで何となく使っててあまり意識したことはなかったですが、シュミレーターは実際に船を出すよりお手軽で、天気が悪くても学生ができないような内容でもできてすごい機械ですよね。普通は簡単に体験できるものではなく、設置するのも容易ではないものなので、学校にあるってことをありがたく思わないとですね。私も学校で何度もお世話になりました。

それから、書き方について少しお断りを。英語ではsimulationと表記をするのですが、この記事ではシュミレーションと表しています。正確な言葉ではないのかもしれませんが、調べたら日本人はこの発音が多いらしいということと、私のソフトの変換にも出なかったのでこのような表記にしました。

この記事はもう完っ全に私の体験談で、あったことをダラダラ〜と書いただけです。何の教養になる訳でもないんですが、家庭待機やおうち授業になっている方の時間潰しにでもしてもらえたらと思います。

私も、実習がちゃんと始まるまであと一本記事を書けるかどうかというところかな、と思っています。

皆さんも体調にはお気をつけくださいね。