とある女性航海士の日常

新米の女性航海士です。高専や船のことなど書きます。コメントは悪意のないものは100%返信しますが乗船のため非常に遅いです笑(半年後くらいかも)

【日本丸の元実習生が語る】乗船実習で受けた理不尽~練習船内部の実態~


私たち商船学科生は、航海士機関士といった船乗りになるために日々勉強しています。
 
その中にはもちろん、実際に船に乗って勉強する、乗船実習というものがあります。
海技教育機構というところの持っている、日本丸とか銀河丸といった船に乗って実習するんです。
 
高専生の場合だと、2年生で一ヶ月、4年生で五ヶ月、6年生で六ヶ月の合計一年間海技教育機構の船に乗るんです。私はもうすでにこの半分、半年間日本丸に乗船して実習をしてきました。
 
長いですよねー、我ながらすごいと思います。
 

 

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私が半年間実習した練習船日本丸

ただ、今はコロナウイルスの影響で私の後輩たちは2年生の実習がなくなっているそうですね。


さて、船の上で船乗りになるために実習をするのですから、当然楽なことばかりではありません。むしろ、船酔いに不規則な生活に教官からの怒号練習船に乗っていて
いいことなんてほとんどないんです。苦労が山積みです
それでも私たち商船学科生は、船乗りになるためにこの辛い実習に耐えなければならないんです。
 
この記事では、具体的に練習船の内部でどんな理不尽があったのか、私が感じたことを書いていきたいと思います。船内の雰囲気が厳格なのはわかりますが、それでも学生にこれはないんじゃないかということが多々ありましたので実習生の立場から紹介します。
まあ、船乗りを目指しているんだからそんなの甘えだ!と言われればそれまでなんですけどね。時代も変わってきてはいますが、それでも昔の名残が多い練習船の実情があります。

内容は批判多いです。それでもよろしいという方のみ、お読みください。
ただ、私が実習をしていたのはついこの間のことであり、書いてある内容も私の主観ではありますがすべて本当です。
どーでもいい私の愚痴の中に、本気の訴えが混在しています。

どうやら、私のこれまでの記事の中でも最も文字数が多くなってしまったようなのです。私の性格の悪さが露呈しましたね(笑)
記事を分けることも考えましたが、そういう内容でもないのでこのままで行くことにしました。飛ばしたい時には目次をクリックしてくださいね。
 
 

集合時間に遅れたら全員の前で謝罪


実習なので当然全員が集合する時間というのがあります。
その時間は明確に決められていて、時間になるとアラームが鳴るんです。
 
しかし、どうしても遅刻してくる人はいます。乗船実習では、遅刻をしたらその人はみんなの前に行って帽子をとり、班名と名前を言って謝罪をしなければなりません。
 
このとき、声が小さいと怒られます。船には数百人乗っていますからこれは精神的にきついです。
 
遅れてきて怒られるのは当然ですが、これだと見せしめみたいだなと思います。謝るだけなんだからいいし、みたいな人もいますが私は絶対に嫌です。

もっとエスカレートすると、遅れて来た人は15分前集合、次はその部屋の人も、その班の人も…、という風にどんどん罰が増えていきます。
私のときも班の男子が何回も遅刻して、連帯責任で私たちまで15分前集合になったことがありました。
 
でも、同じ部屋の男子が集合時に声かけをしなかったから連帯責任というのならまだわかりますが、我々女子も同じ罰というのは納得できなかったです。
 
そもそも女子は決まりで男子の部屋には入れません。だから、集まらないからって女子にできることはないんです。それなのに、遅刻の人と同じ班だというだけで何も対策のできようのない私たちまで罰が与えられる…
 
正直、私たち女子には彼が遅刻するのを回避しようもないし、班だってたまたま一緒だっただけで自分たちは何もしていないのに、私たちも罰のような扱いをされて意味がわかりませんでした。とはいえ一等航海士の教官に逆らえるはずもなく、これも、単なる見せしめなんだなって思いました。

まあ、大人になったら理不尽なんて五万とあるのでしょうからこんなことでどうこう言っていられないのかもしれませんね。
 
 

居室が8人部屋


これは、船側には何も非はないのですが、実習で私が特につらかったことです。

船の中はスペースが少ないので居室はたいてい4〜8人部屋です。
しかも部屋はみんなが床に立つともう動けなくなるくらいの狭いスペースなんです。だから不自由なことこの上ありません。もちろん士官たちは一人部屋です。

私たち高専生が実習するときは、最低でも17歳です。そんな年齢で8人部屋、それも、修学旅行とかであればまだしも、数カ月という長い期間だなんてなかなかないですよね。でも、高校生の年齢ならまだいいんです(よくないけど)
 
私たちは6年生になれば21歳なんです。
こんな年になってまで、あんな激せまの、8人部屋とかで半年過ごす人なんていますか?!練習船の中か、監獄くらいのものでしょう。

まあもちろん、私だって船の性能とか勉強していますから、こういう不自由はわかっています。でも問題の理不尽はそこじゃないんです!

相部屋なら少なからず周りの人に気を遣わなくてはなりませんが、なかなかにいろんな人がいます。
人が寝ていても気を遣わず騒ぐ人や部屋で音楽をかける人、物を散らかす人、公共スペースの使用マナーが守れない人などがいます。そういう状態であっても大人数で一緒の部屋だということ、環境が精神的にきついですよね。
 
一応気づいたことは傷つけないようにに言うようにしてますが、すごく我慢しなければならないこともあるんです。個室なら散らかそうが騒ごうが勝手にやってくれって感じですが、相部屋でこうだとすごくストレスがたまるんです。
 
音楽とか、自分の全く興味ないものを大音量でかけられた日には地獄ですよね?生活のペースとか習慣も違うし…。まだまだありますが、キリがないのでストップします。
 
逆に、私だって高い人口密度の中、必ず誰かの邪魔をしているはずです。
 
とはいえ、一緒に実習をする仲間だし、大事にしなくてはいけないという面があるのも事実で…。
 
船なので相部屋になってしまうのは仕方のないことですが、いろんな人と密接に過ごすのでトラブルに発展しやすい環境でもあります。
 
 

教官の言動がほぼパワハラ


これは、海技教育機構の乗船実習に行った人ならみんな感じることでしょう。
今、陸上ではパワハラについて騒がれる中、船の上では時代にそぐわないなと思います。

乗船実習では、教官の言動がいちいち高圧的で、脅迫しているようです。
実際、「やる気がないやつはオレ、帰校届け持ってるからいつでも手続きしてやるよ」とか、「下船できるのは当然じゃなくて船長の許可を得て船から降ろしてもらえるんだからそれをわかってろよ」とか、「お前らにはここもここも欠けてるんだから余計なことはするな」とか、何度言われたか知れません。
 
細かくあげればキリがないですが、とりあえず、安心できるようなことを言われることはまずありません。口を開けば事務連絡か脅迫まがいで、学生に圧力をかけるために言っているとしか思えません。
 
しかも上下関係がはっきりしているので口答えは一切できず、教官の機嫌を損ねれば「文句あるならいつでも船降りていいからね」と言われるだけです。

機会があったのでついでに書いておきますが、未だに忘れられないことがあります。
 
ある教官(男)は点検の時に女子風呂の脱衣所に作業靴のまま上がり、点検をしました。その作業靴のせいで脱衣所にぬれた靴跡がついて、私たちが裸足で上がるところなのにひどいことになりました。私が「足跡ついたんですけど…」と言ったらその教官が言ったのは「あ、お前ふいといて」でした。
そういう人もいます。

船の上なんだからある程度厳しいのは当たり前なのかもしれません。私も実習自体が内容の厳しいのは知っています。
しかし、あまりに実習生自身の尊厳を傷つけたり脅迫したり、ただ怒る、どなるだけというのは勉強ではなくただ辛いだけです。こんなことが陸上でされていれば今の時代、すぐパワハラですよ。
 
船の上という閉鎖された空間で、また実習生と教官という厳しい上下関係なのでなんでも許されてしまうという実態があります。
 
今であれば「また言われるのかー」と流すこともできますが、17歳で初めて乗船し、毎日圧力をかけられていた時には参ってしまいましたね。

私の学校の機関長も「海技教育機構に就職考えてるやついる?自分に甘く他人に厳しい人は向いてると思うよ。乗船実習で見ててもそういう人が多かったでしょ?」と言っていました。
経験豊富な機関長であっても海技教育機構に関しては私たちと同じ認識なんだなと思いました。

あ、大前提として、教官たちも私たちのために教えてくださっていたり、中には理不尽でない教官もいるというのは理解しています。そういうレアな教官は船の中で実習生にとって拠り所です。
教官たちがいなければ私たちは免許をとれませんし、それはよくわかっています。
 
ただ、長期の実習だと実習生たちの間で教官の「当たり外れ」があるのもまた事実ですし、頭ごなしではなく、もっと実習生に愛のある接し方をしてもらえればと思うのです。
 
 

私の高専だけ制服のスカートを履けない


実習では、乗船式や下船式などの式典で必ず学校の制服を着なければなりません。
全国には5つの商船高専があるので、制服はみんな違います。だから、みんなそれぞれ自分の高専の制服を着ます。
 
ところが、私の学校の女子は乗船のときにはズボンでないといけないと言われ、ズボンを履いていたんです。自分の学校からズボンでと言われ、そうしたんです。
 
何でスカートだといけないのかと、少し違和感はありましたが、まあ船の世界だしそういうこともあるのかと従いました。
 
ところが、船に行ってびっくりしました!他校の女子たちはみんなスカートで来ていたんです!ズボンではないといけないと言われたのは私の高専だけでした。驚いて、実習が終わってから学校の教官にどういうことかと聞きました。もしかして、学校側の伝達ミスかと思ったからです。
 
ですが、学校の教官に確認したところ、海技教育機構から」「うちの高専だけ」女子はズボンでと言われたらしいのです。理由は、「私の高専だけスカートがひらひらしているからダメ」なのだそうです。

いや、おかしいでしょ!って思いました。うちの高専の制服はどこにでもあるようなプリーツスカートです。ひらひらって言ったってほかの高専の女子の制服と変わりません。プリーツの他校、全然いますよ。
長さだって、他校もうちも膝丈くらいですよ。どれだけ短くしたって常識の範囲を超えて短くすることもできませんしそんな人いません。

そもそも、実習中でもなく式典なのにスカート禁止っていう時点で違和感があったんですよ。しかも、安全上の理由とかじゃなくてデザインが気に入らないからダメって…。
 
これを言ってきた人は世の中で普通に制服着ている女子高生たちをどう思っているのでしょうか?
 
まあでも、百歩譲ってスカート禁止でも船内の決まりってことでいいとしましょう。
だとしても、「ほかの高専はよくてうちの高専はダメ」って明らかに問題ですよね?うちの学校だけ禁止にするんだったら他校のスカートとどのように違うのか明確に示してもらいたいものです。少なくても私の目には色以外に違いがあるように見えないんですが…。

「スカート履けないくらいどうだっていいだろ」と思う方もおられるかもしれません。確かに式典だけで履くものなんてどちらでもいいかもしれません。まあ、私はスカート好きなので履きたいですが。
 
しかし、好みの問題ではありません。
 
通常、女子の学生の制服はスカートです。希望してズボンを買う人はいますが、うちの学校の女子では40人に1人くらいです。
 
ですから、ほとんどの女子はスカートで学校生活を送っており、ズボンなんて持ってないんです。ということで、実習にズボンでと言われれば慌てて買わなくてはなりません。実際、私の後輩も入学した後にズボンを買わされてます。
 
もちろん制服ですし学生ですから決して安くはありません。学校ではスカートだから、実習の式典以外では全く使わないのに、買っているんです。「スカートはひらひらしてるから」って理由で、です。うちの高専だけです。
こんなの、どう考えても不公平ですよね?使いもしないのに買わされるって、つらいですよね…?

ここで長くなったのでちょっと整理すると、

 
  1. 無駄な出費をさせられる
  2. デザインにしか根拠のない強制ズボン
  3. 学校差別がある

の大きく3つの問題があります。履きものなんて小さいことかもしれませんが、特に3番目はこれ、普通に大問題じゃないですか?あと1番目も私たち学生には地味に死活問題だし。もちろん、これはあくまで学生である私の立場から見た意見です。しかし、実際、私の学校の教官にも憤慨されている方がおられます。

誰が決めたか謎ですが、海技教育機構ってこんなところなんだなって思います。もちろんJMETS(海技教育機構)の人全員がこういうことをする人だとは思っていないですが、海技教育機構から学校にこういう指示を出されたせいでちょっと不安を覚えますよね。

私の学校の教官が頑張って抗議してくださっているそうなのですが全く耳を貸されなかったそうなんです。学生に指示を出す立場だからこんなことを高圧的にできるのかと思うと残念だし、1校の女子にだけスカートを禁止するって根拠がわからなすぎます!
 
学生相手にそんなことがまかり通ってるって、横暴もいいとこだし、これが私たちが免許取得のための実習をしなければいけない海技教育機構なんですね。
 
 

実習のバランスがおかしい


通常は実習は班ごとに行われます。この班は当直、この班は座学というのを回していきます。
 
しかし、必ずしも班の数と実習の数が同じではないので、どうしても偏るんですよね。実習ってたいてい1班から入れると思うのですが、いつもそうなので毎回1班の実習量だけ多くなってしまうんです。
 
私はなぜかいつも運悪く1班なので、作業量が大変多いです。その分次回は別の班から入れるという配慮をしてくれればいいのに、そんなことは全然なかったですね。

たくさん経験できてありがたいと思えばいいのですが、残念ながら私はそんな殊勝な性格ではないので理不尽に感じます。

こんなこともありました。最初、私たちが食料積み込みなどの作業を行い、その間ほかの班の人たちは休んでいたんです。ただひたすら150人が半月食べるための食料を船に乗せるという作業です。その時やらなかった班の人たちは、次回にゴミ出しの時に作業をするということになりました。
 
でも結局、その時になったらやっぱりみんなでやろうってことで全部の班が駆り出されたんです。不公平ですよね。

私が細かいことでネチネチ言ってるだけなのかもしれないですけど…。
 
 

使わない知識を勉強する


実習でせっかく技術をつけるために行っているのに、将来船に乗ったときに使わないことをさせられたら、それは無駄ではないでしょうか。

実は、実習にはそういうことがけっこうあります。
 

練習船が帆船


まず、私の乗っていた日本丸という船は帆船なのですが、ここからがそもそもおかしいのです。
 
帆船なんて、イマドキ海技教育機構の船にしかありません。帆船というのはエンジンが発明される前、昔に使われていたんです。もう今は、資源を運んだり私たちが就職したりする実際の船は、全て機関で動いています。現代ですからね。
 
それが、私たちは将来汽船にしか乗らないというのに帆船で実習するという意味のわからない状況…。
なんのためにわざわざマイナーもマイナーな種類の船で学ぶのか理解に苦しみます。

もちろん、風と船の動きの関係はいつの時代も重要ですし、帆船での実習も別にマイナスではないと思うんです。
でも、どうせ半年も実習するなら、将来乗るであろう船と同じ環境で実習した方がより役に立つに決まってます!汽船で実習した方が、将来の職場に近い環境で実習ができると思うんですけどね。

なぜ私がここまで汽船にこだわるのかと言うと、自分の将来のためというのもありますが、汽船の方が過ごしやすいからです。
ただでさえ狭く、過ごしにくい船内で半年も暮らすのですから、これは重要な問題です。汽船の方が広さも広いし、揺れも少ないし、マストの整備とかもない…。将来汽船に乗るという動機に加えて、どうせならより快適な方に乗りたいですからね!

しかも、日本丸に乗ってたと言ったって、私たちは帆走をしなかったんです。
実は、私の乗る前の年にマストから人が落ちる事故があり、急遽帆走をしないことになりました。それに合わせて、行き先もハワイからシンガポールに変わりました。

だから、帆船に乗っていたって、帆を張ったこともなく、マストが完全にお飾りになってしまっていました。
 
それなら、汽船に乗ったって一緒じゃないですか!?
マストがあるせいで船は変な揺れ方をするし、あと風の方向が変わるたびに抵抗を少なくするためにマストを動かさなくてはいけないんです!
これは、全員が駆り出されて全てのマストの方向を直す、すごく大変な作業です。日本丸には、確かマストが四本、各マストに横木(名前忘れた…)が六本あったと思いますが、それらを全部実習生みんなが手動でロープを引っ張って風に対する方向を変えるんです。
 
帆走はしないのに、何もわからずマストの作業だけはする、すごく無駄な時間が多かったと思います。ほかに船がないならしょうがないのかもしれませんが、航海コースだけ必ず帆船というのが謎ですね。機関コースがエンジンしかない船というのは納得できますが、そんなにいつも汽船は出払っているんでしょうか。

先輩たちは「帆走、いい思い出になったー」とか「将来使わないかもしれないけどマストに登るのは実習生でしかできないもんね」とか言っていましたが、私たちの代はそんな思い出すらなく、実習生特有の、帆走での実習も経験できませんでした。ただ乗って、エンジンで全て走り、帆船の辛いところだけを味わったという…。
 
何度も言ってますが、やることが変わらないなら汽船に乗りたかったです。一緒に乗った航海コースの同級生たちも「日本丸嫌だー」と言っていました。

ではどうして、いつも高専の航海コースだけが帆船なのでしょうか。
 
答えはわかりませんが、個人的には帆船の方が格好よくてファンの人が多いからと、新しい船がなかなか造れないから昔の船をずっと使っているからかなと思っています。
外から見る人にすればきれいでも、実習しているこちらからすれば全然心は晴れません。帆船の分、セールの管理とか面倒になりますからね。
 
あるいは、昔から航海コースは帆船で実習をしていますから、その伝統で帆船なのかもしれません。だとしたら本当に意味がなく帆船なので、貧乏くじを引かされているという感じでしょうか。
 
そんな、きれいだからシンボルだからとかいう伝統にこだわらず、次造る時は全部汽船にした方が実習生にも嬉しいし、ひいては将来のためだと思うんですよ。
 
あ、もし帆船で実習をしなければならない崇高な理由がちゃんとあってのことなら勝手なこと言ってすみません!
 
 

使わない設備


さらに、帆船というだけではありません。
日本丸設備もめちゃくちゃ古いです。
 
例えば、救命設備。現在の救命設備は全て自動であり、非常時にはすぐに逃げ出せるようになっています。
ところが、日本丸の救命艇は手動で、十数人でロープを引っ張らないとおろせないんです。全て手動なのでこの作業もまた大変です。
 
救命艇の振り出しから水面への降下まで、全部ロープを引っ張ったりして作業するんです。
 
実際に就職したあとはもっと新しい、ちゃんとした自動の救命設備が普通で、そんな大勢で時間をかけながら救命艇を降ろすなんてないそうです。
だからただ時間をかけて大変な思いをしてやるだけで、活かせることはないだろうという、なんとも残念なことです。

しかも、これを大勢でオールで漕いで陸まで行く、という実習があるんです。日本丸はそんなに浅いところに錨泊できませんから、陸まではけっこう漕がなくてはいけません。これも船乗りらしいといえばそうなのですが、将来こんなに漕がなければならない状況があるのかというとちょっと微妙です。
 
普通の救命艇はエンジンで動くものですから、今どき十数人でオールで漕いでこんな疲れる距離を行くことはないと思います。何でこんな、使わなそうなことばかりするのでしょうか…?
 
私は正直、うちらをいじめるためだとしか思えません。あるいは、日本丸が昔の船で古い救命艇しか積んでないけど使わないともったいないから!って感じでしょうか。だとしたら完全にとばっちりです。

また、陸と船をつなぐ係留索という太いロープがあるのですが、日本丸はそれを巻くのも手動です。もちろんこれも手動とか今どきないそうです!
 
現代では全て、機械で巻き取れば係留できますが日本丸では実習生6人が力を合わせて係留索をぐるぐる巻き取ります。
そもそも普通の商船では一本の係留索にそんなに人員をさけるほど乗組員はいませんし、これも無駄にアナログで、就職したあとは使わないこと必至でしょう。それなのに上官に従ってやらなければならない実習生たち、不憫ですよね。

と、まあいろいろ書きましたが、実は帆船にする意味があるのかもしれませんし、単純にお金がなくて新しい船を買えないだけかもしれないので一概に文句だけ言っていてはいけないのでしょう。しかし、できれば将来の貿易を担い、日本を支える船乗りの卵たちですので、なるべく実のある内容を凝縮して実習したいものです。
 
 

遠洋航海に女性教官がいない


これは普通に、えっ大丈夫なのかなと思いますが、私が五ヶ月の実習でシンガポールへ行ったときのことです。
 
シンガポールへ行くには往復で約一ヶ月、ずっと船を動かし続けなければなりませんでした。あ、もちろん現地で下船だけはできましたが。そのときの記事はこちら↓↓

【日本丸旅行記】写真付き!~シンガポール編~ - とある女性航海士(卵)の日常

 

片道二週間ずつの航海中はずっと止まることはなく、もちろん陸も見えない閉鎖された環境です。降りたくたって日本へ帰るまではどうすることもできません。

私も含め、最近は船乗りの世界にもどんどん女子が増え続けています
このときも船内には20人近い実習生の女子がいました。私の同級生たちです。これは、実習生全体の2割にあたりました。
 
しかし、それだけの人数の女子が乗っていたにも関わらず、教官には女性はいませんでした。あ、ちゃんと海技教育機構には女性の士官もいるそうです。私は会ったことないですが。

私たちはみんな、当時まだ19歳です。船はまだまだ男社会ですから、周りが男子ばかりの中で実習をしなくてはなりません。体力面や実習内容とは別の苦労を感じることはない、と言えば嘘になります。
ただでさえ、これまで書いてきたような練習船の実態がありますからね。それで、これだけの人数の女子が乗っていて、女性の教官が全くいないのは、少し違和感を感じました。

やはり、女性の教官がいることによる安心感や、同性にしか相談できないことなどあると思います。
 
しかも、国内の実習であれば定期的に下船してリフレッシュすることもできますが、シンガポールへの航海は降りることのできない長期間で、閉鎖された環境の中で、よりストレスを溜めやすい環境になります。その中で、大勢の男子と男性教官しかいない船に乗り実習をするんです。
 
実際、「女性教官がいないからこういうことを相談できない」と悩みを抱えているルームメイトもいました。話を聞いてくれる相手がいるだけでもだいぶ気持ちが楽になるものですから、この年齢で、初めての遠洋航海には同性の教官がいてほしかったというのが感想です。
 
結局、何とか私たちの航海は無事に問題なく終えられましたけど。もし、遠洋航海中に女性教官がどうしても必要な切実な状況に遭遇していたらどうなっていたんでしょうか。

また、悩み相談だけではありません。女子の衛生設備に関して何か不都合のあった時にも男性の教官しか頼れる人がいません。
例えば、洗濯物を干しているところが故障すれば、一度全て取り込まなければならず、衛生設備で何か問題があっても言いにくかったり、解決できる人がいないから放置されたりしていましたね。
 
長い航海なのでそういう面でも大変でしたね。
 
 

裸足で甲板流しをする


甲板というのは船の屋上のような場所で、一番上の、外部に直接触れている部分のことです。

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木甲板

ここは広いのでちょっとした運動をしたり、集合時に使われたりします。

甲板流しというのは、ここを掃除することの呼び方で、ヤシの実で木甲板を磨くんです。
 
まずは海水で流し、そのままでは錆びるのでその後清水で洗い流します。
これは、朝の掃除の時間に行っています。このとき、裸足になってしゃがんで長時間デッキをこすらなくてはいけないのでみんなこの作業を嫌がります。けれど当番になるとみんないやいや裸足でタンツー(甲板流しのこと)をしなければなりません。ちなみにこのヤシの実にはシャボンの効果があるので使われているそうです。

しかし、これは、夏ならまだいいのですが、冬であろうと裸足でやらされます。冬に甲板流しをすると、すぐに足が寒さで真っ赤になります。
 
裸足で外に出るというだけでもありえないのに、そこに海水やらを思い切りかけられてすぐに凍えそうになります。冬に裸足に水をかけられて寒いのにしゃがんでヤシで甲板をこすり、動作が遅かったら怒鳴られて、朝の掃除の時間はずっとそれをやり続ける…。
 
最初は寒い!と思いましたし、足も冷たくて早く温まりたいと思うだけでした。
しかし、しばらくするとだんだん足が小指から感覚がなくなってきます。指は感覚がなくなり、これ、凍傷なんじゃないかなと思うほどです。毎回、このまま指がもげるかもしれない恐怖があります。
足の裏は歩くたびに痛くて、立つことさえ辛いです。足が冷えるとそこからどんどん体も冷たくなってきます。指がなくなる前に何とか掃除の時間は終わります。その後シャワーで必死に温めますが、いつもしもやけになって終わりです。
 
2月や3月だってこんなことをやってて、本当に体に悪いと思います。

今までいろいろ書いてきましたが、私はこれを練習船一番の悪習だと思っています。
 
タンツー自体はまあ、掃除の一環としていいと思うんですよ。
でも、別にこれを裸足でやる必要なくないですか?水にぬれるんだったらサンダルでも長靴でも履けばいいわけで、冬にまで裸足でやらせる意味がわかりません。
 
実際、甲板員(航海士の部下)の人たちは長靴はいてうちらに水をかけてきますし。
乗組員ですらちゃんと靴を履けているんですよ!実習生には裸足を強要しているのに。
 
いつかポチョムキン号のように全員で反抗して「絶対裸足でタンツーしないぞ!」ってやってくれないかなと思います(笑)あれだって、原因は肉に虫がわいてたっていう小さいことで反抗してますからね。

ほかの理不尽については、士官が厳しいのは船の上は危険だからとか、部屋が8人部屋なのは船ってスペースが狭いからだとか、そういう捉え方もできるのでまだわかるんですよ。でも、甲板流しでわざわざ裸足になる理由って、多分航海士の教官ですら納得のいく答えをできないと思いますよ。
 
何で裸足かって、「昔からやってるから」とかって理由ですよね、どうせ。伝統とかいって何の意味もない、悪しき風習だけが残ったいい例ですね。
陸に比べて全然対応が遅いんですよね、船って。誰かが本当に凍傷で指をなくさないとわからないのでしょうか。海技教育機構の上の人がどれだけ現状を知っているかわかりませんが、現場っていうのはひどいものですよ、いつだって。

少なくとも女子にさせる仕事じゃないと思います。
あ、別に私は自分が女性だからといって実習で女子を優遇するべきだとか、内容を変えるべきだとかは全く思っていません。むしろ自分で選んだ道ですし、女子だって同じ実習内容をして当たり前だと思っています。
私は将来船乗りになったときに役に立つ、航海計画etc.の実習なら好きですよ。
 
しかし、さすがに体に害を与えるような実習ともなれば話は別です。末端冷え性の人も多いですし、将来子どもを産んだりっていうことを考えれば後遺症も怖いですよね。
 
まあ、あえて必要のない体の痛めつけは控えるべきなのは男女ともにですけどね!

ていうか、思ったんですけど、しゃがまずにモップの先にヤシの実をつけてこすればそれでいいですよね?下はぬれるから長靴、ヤシの実はモップにつけて立って掃除、これでいいじゃないですか?それが実習生のためです!

昔から練習船では甲板でこのスタイルで精神を鍛えているんだ!とか言う人は、想像してみてください。真冬の朝に、玄関先で裸足で足に冷水をかけるところを。そのまま足の感覚がなくなるまで外で歩き回りながらしゃがんで掃除するんです。想像しただけでもヤバイですよね?
ちなみに練習船では海の上なので気温ももっと低いですし風も吹いていて寒さ倍増ですからね。どれだけきついことをさせられているかおわかりいただけますでしょうか?

大事な伝統だとして、実習生の足の感覚をなくし、指のなくなる恐怖を与え、しもやけにしてまで残したいものなのでしょうか。
練習船ができた昭和の頃はこんな風にタンツーをして毎朝怒号を浴びせられていたのかもしれませんが、今では精神を鍛えるのと肉体的な痛めつけは違います。もうこういう時代ですし、そろそろ誰かが提起してこの甲板流しのやり方もなくなるんでないかなと思います。
 
 
 
 
 
 
いかがでしたか?
あ、この記事では完全に私の意見について書いているので別の意見の方も当然おられるかもしれません。ただ、大半の商船学科生には共感してもらえるだろうとは思いますけど。
 
一緒に船に乗った商船学科生の中には乗船が楽しみ!なんて人はほとんどおらず、みんな下船を楽しみにしているんです。意外かもしれませんが、船に乗るのが本当に楽しみっていう実習生の方が実際はレアです。
 
むしろ、外から見ている人たちに限って、イメージで「ロマンあるわね〜」とか言ってるんです。確かに船でいろいろなところへ行けて商船学科は素晴らしい学科ではありますが、覚悟もまた必要ってことです。

ただ、大前提として、未来の貿易を担う私たちのために、税金で実習をさせてもらっていることへの感謝の気持ちは忘れてはいけません。それで私たちは一切の負担がなくいろんな寄港地を船で回ったり実習中にも3食しっかり食事をしたりできるんです。文句を言えるのも無事に実習ができているからですよね。

いろいろ書きましたが、未来の船乗りである後輩たちのためにも、特に無意味な悪習が早くなくなることを願っています。