【私の三級海技士(口述)受験記録】~口述試験の様子とは~
私は商船学科を卒業した年のの10月に、三級海技士(航海)の口述試験を受けました。船乗りになるために取る資格です。
この記事では、こちら(【私の商船学科受験記録】~志望から面接まで~ - とある女性航海士の日常)の受験記録と同様、私が受験していった流れを書いていきたいと思います。
これは、私の場合ですので、完全に自分の経験した目線でのご紹介になります。ほかの会場、ほかの回に受けると違うこともあると思います。
三級海技士とは
海技士免許の航海には、一級から六級まであり、私が今回取得したのはこの中の三級海技士になります。
三級海技士は、実は割と上級の資格でして、外航船という海外に行くかなり大きな船にも乗ることができるのです。
一般の方から見て大きな船だと思っても、四級海技士とかで操縦できてしまうものということもあります。三級というのはそれだけ高い資格なのです。何も仕事のしたことのない一学生が取得できるものの中では、最大の資格になります。
私たち商船学科生は、5年間を通して船の学科で勉強することで、普通に海技士試験を受けるよりもかなり楽に受験資格を得ることができます。
普通であれば、まず筆記試験を受験し、その後、船員として働きながら経験を積んで履歴をつけなければいけないのですが、私たち商船学科生は筆記試験を免除され、海技教育機構の練習船で実習をすることで自分で履歴のために働くことなくすぐに口述試験を受けることができるのです。
海技士試験には筆記試験と履歴の取得と口述試験があり、これらを全て満たして初めて合格となるのですが、口述試験だけ勉強してこの大きな資格を取れるのはかなりありがたいと言えます。
ただ、もちろん、学校の勉強はしっかりしなくてはいけません。学校の授業が筆記試験の内容をカバーしているので免除ということになっているのですから。
私が今回受験した口述試験ですが、まあ、字面からイメージできる通りです(笑)
面接官の方がいて、船について聞かれたことを答える、ざっくり言えばそんな試験です。
ちなみに、私は航海の試験を受けましたが、機関コースの人はもちろん海技士の機関という部門を受験します。
個人的には、書いても同じでしょうに、なぜ筆記と口述にわざわざわけているのか疑問なのですが、じっくり考える時間がない中で面接官に伝える技術にまた意味があるということでしょうか。相手に説明できるような能力というのは、書くこととはまた違うでしょうからね。
それから、口述試験では簡単な身体検査も行われます。でもこれは物を普通に掴めたりすれば確実に受かります。
試験勉強
高専の6年生になると4月から海技教育機構の練習船で半年の乗船実習があります。(私たちはコロナで7月からでしたけど)
9月に下船して卒業し、10月に就職と同時にこの口述試験を受験するのです。つまり、練習船を下船してすぐに卒業、就職、口述試験と慌ただしいのです。
このため、私たちが口述試験の勉強をできるのは、半年実習をする、練習船の中だけということになります。
ちなみに学校を卒業して会社の所属になってから受験ということになるので、合格しないと会社に迷惑をかけてしまいます。
会社の方は海技士を取得するものとして採用していますし、入社条件にしているところもあるので、実際に内定取り消しみたいな話まで聞いたことはありませんが、そこらへんはかなりシビアなようです。会社からは合格するのが当たり前とみなされています。私たちとしても、高専で5年も船の勉強をしてきて最後の最後で免許を取れないなんて目には遭いたくありません。
さて、勉強に話を戻しますが、多くの実習生が6年生の練習船実習の空き時間に勉強しています。大抵は海文堂さんという出版社の青い参考書を使っており、一人一冊持って乗船することが多いです。ネットで安く買ったり、先輩から譲り受けたりする人が多いみたいです。これは、絶対に持っておいた方がいいと私は思います。
(↓↓この本です)
こう言っては何ですが、試験官の質問に完璧に答えることなど不可能なので、問題内容と答えをなるべく覚えるためにも手軽に読める問題集を持っていた方がいいです。丸暗記するだけでも、試験官は勉強した雰囲気だけでも感じて点をくれる、らしいです(まあ、理解できればなおいいと思いますが)。自分で書き込みもできますしね。合格したら後輩にあげるなりできますので。
私は実習の空き時間にちょいちょい書いたり読んだりしながら勉強しました。とは言っても、これまで商船学科で勉強してきた人であれば、意味不明なくらい難しいという問題はありません。
一級や二級の筆記試験を受けるときなど、初見の計算が山ほど出て苦労しましたけどそんな感じではなく、商船学科生の知識の範囲内なので比較的少ない勉強量で大丈夫だと思います。
一通り頭に入ったら、実際に周りの人と聞き合って答える練習をしました。練習船の教官も面接してくださり、青雲丸では全員が教官とマンツーマンの模擬試験を体験できました。
瞬時に出てこないこともあり、やはり筆記との違いを実感できましたね。とりあえず、自分の知っていることを出して何かをしゃべるということを意識しました。
申請
口述試験の申請期間は練習船に乗っている最中ですので、多くの学生は代理店や海事事務所といって、手数料を払って代わりに申請してくれる方に頼みます。私も代理人さんに申請してもらいました。手数料がかかってもその方が書類の不備などなくて安心です。
船会社に就職する人は試験が早く、陸上企業に行く人は試験が後の方になるので、私たち船に乗る学生は特に日程的に厳しかったです。コロナで下船が延び、卒業式が9月の後半で、もう卒業式の3日後に口述試験というあり得ない目まぐるしさでした。
口述試験は全国各地の港が栄えている大都市で行われます。普通は自分の家に近いところで受ける人が多いですが、そこが嫌で遠くの会場で受けるという選択も可能です。
会場によって厳しい試験官がいるから落ちやすいとかっていう都市伝説もあるようですが、私が受けた感じだとそんなことはなく、まあ公正かなって感じでした。
口述試験内容
口述試験では、筆記試験を受けたことのある人なら想像つくでしょうが、いくつか科目があります。
航海、運用、法規の部門があり、最後に海技試験六法をひくという問題が出されます。
だから会場に海技試験六法という分厚い法規がたくさん書いてある本を持ち込んでもいいのです(ただし、試験官の許可を得るまで見てはいけません)
私は詳しく知りませんが、各科目に点数がつけられており、そこから合否を決定するようです。
後からまた書きますが、大まかな内容はこんな感じです。
航海…航海計器(レーダー、コンパス、GPSなど)、航法、航海計画、潮汐、天体
全部で一人5問くらい
運用…安全、天気、船の構造、貨物の積載、船員の訓練
一人4問くらい
法規…船の法律(主に海上衝突予防法、海上交通安全法、港則法の三法から)
一人4問くらい
六法…三法以外
一人一問
ほかにも問題はたくさんありますが、代表的なものはこれらになります。
この、一人何問というのは大問、つまりもともとの問題の数であって、小さい質問は含まれません。このほかに、答えに関して細かくいろいろ聞かれます。
筆記試験と違い、英語がないというのはまだ救いですよね。
受験日
試験があるのは大都市だけなので多くの遠方の人はホテルなどに泊まります。私も例に漏れず、ホテルに前泊しました。ホテルでも少し夜に勉強しました。
当日は、だいたいどこもそうだと思うのですが、海事運輸局という国土交通省の系列の市役所のようなところで試験がありました。
最初は会議室のような殺風景な待合室に通されそこで待っていました。私のときは同じ学校や実習で一緒だった人が一緒だったのでそれほどアウェー感はありませんでした。
みんな自分の家に近いところで試験を受けますから、必然的にクラスメイトや知り合いと一緒に受験する確率は高くなると思います。
その後、本人確認や事務的な手続き、話があり、別の試験室というところに通されました。
実を言うと、私はそこまで緊張していませんでした。実習中もけっこう勉強していた方だと思っていて少しは自信がありましたし、口述試験で落ちる人はあまりいないと言われていたからです。それなら、二級や一級の筆記試験を受けたときの方がよっぽど緊張しました。でも、教官とかに聞くと、当然ですが緊張はするものらしいです。
私たちは受験者3人、面接官1人で試験を行いました。
面接官は叩き上げのような、男の方でした。私の予想では、おそらくどこか内航の会社での船長経験者だと思います。なぜなら、船に乗ったことのない人ではできないような専門的な内容の話が出てきましたし、実践的なことに詳しかったですし、態度や雰囲気も一公務員では全くなかったからです。もちろん予想でしかないですけど(笑)
面接官は予想以上に気さくな方で、午前中いっぱい試験だったのですが、かなりを雑談が占めました(笑)
会社のことや、練習船のことなどいろいろ聞かれました。なので、話しやすい雰囲気で試験を受けることができました。
どこの会場でももちろん公正に試験してくれると思いますが、雑談多めだったことや、答えられなければわかる質問に変えてくれたことから、私たちの面接官はかなりアタリだったと言えるでしょう。ご本人も自分をゆるい方だと言っていました。落とすつもりはなさそうでしたね。
試験開始前に、身体検査がありました。これは、手を握る、屈伸、背伸びなど、まあ、ラジオ体操レベルの運動でした(笑)普通にみんな合格しました。
それから、航海から順に試験が始まりました。3人の受験者がいましたが、みんな順番に別の問題を出されて答えていくのです。
だから、「アイツの問題ならわかったのに〜」なんてことがよくあります。どの問題を出されるかは、もう運でしかないです。
試験は9時から昼までかなり長い間かかりました。マンツーマンではなく3人をまとめて採点しなくてはなりませんからね。
試験の裏技として、同じ会場で受けた知り合いに出た問題をきく、というのがあります。
筆記は同じ日に全ての会場で同時に試験を受けますが、口述試験は人対人で会話する必要があるため何日かに分けて行われます。
同じ会場だと同じ試験官である可能性が高いので、前日に受けていた同級生とかに何を質問されたか聞くのです。同級生にされた問題を抑えておけば対策できるかもしれません。
聞かれたこと
ここからがこの記事の本番と言っても過言ではないでしょう(笑)
試験の問題をネットに公開するのは良くないかもしれないと思ったので、各ジャンルにつき何個かに絞ってご紹介します。あ、ちなみに、私だけではなく一緒に受けた受験者たちにされた質問も含まれています。
航海
まず、航海からです。
実は私は航海で一つわからない問題がありまして、少しマニアックな話になりますが、時差と偏差についてがわからないのですね。
実習中に勉強しても前日に勉強してもわからず、知る方法もわからなかったので、理解できないまま試験に臨むことになりました。特に、三級の口述なんて、この時差と偏差がよく聞かれる問題なんですよね。
ちょっとやばいなと思いながらも試験に臨むことになったのですが、運良く質問されませんでした。ほんとよかったです。
航海では、航路標識について聞かれました。もちろん、問題集には載っていたものだったのですが、北方位標識の色、模様、意味、灯火、何秒おきかなどかなり突っ込んで聞かれました。私は標識の光り方は東西南北のうち北の一種類しか把握してなかったのですが、それを聞かれました。なんとラッキー!
受からせてくれるためかもしれませんが、かなり掘り下げられたという印象でした。一問一答の問題集をけっこう暗記していたのですが、自分でも理解していないといけないということなのでしょう。
そのほかには、有名なオートパイロットの問題とか、海図を配られて読み方について聞かれる問題などありました。
運用
続いて運用では、錨を投錨・揚錨するときのやり方について聞かれました。
具体的に機械の使い方や周囲の状況まで、細かく説明しました。
海技士試験を受けるレベルの人であればある程度は知っている内容なので、なるべく自分の経験などからたくさんしゃべり、点を稼ごうとしました。
どうやら、各科目の各ジャンルの中から一問ずつくらい出題しているようです。
例えば、運用では、天気、錨、船の構造、といったところからそれぞれ一問ずつ出されました。なので、まんべんなく勉強しておいた方がいいです。
法規
こちらでも、やはり三法からそれぞれ一問ずつ聞かれました。
海上衝突予防法では、簡単なところで、横切り船の定義とか聞かれました。商船学科生であればもう3年生くらいから知っている内容ですので、かなりサービス問題と言えます。
試験官の方も、私たちが新卒ということで、仕事的なことより実習や学生寄りの質問をしてくれるらしいです。確かに、問題集では荷役の問題とかありましたけど、学生あがりにそれを聞いても実感ないですもんね。
あとの問題も基本的には初歩的な内容でして、とてもありがたかったです。
個人的には、法規は内容が理解しやすく比較的得意な方だと思っていました。一方で、法律の文言ということで、細かい文章まで把握しておかなければいけないのが法規のネックなところですね。
六法
ここまでは、そこそこ問題を答えることができたので、六法の試験には落ち着いて臨むことができました。
六法では、分厚い本の中から質問の答えを探さなくてはいけません。
まず、紙など挟んでおいてはいけないので、中身を調べられました。書き込みは大丈夫だと言われています。
私は、索引がとても苦手でした。あれだけ分厚い本から、問題の答えがどこに出ているか探さなくてはいけないなんて!
勉強するときには、どういう系の問題がどの法律か覚えるように意識しました。
私に出された問題は、海技士免許についてでした。
免許に関することは「船舶職員及び小型船舶操縦者法」だと覚えていたので、目次からその法律を引き、勉強したときに予め書き込みをしておいたところを読んで解答できました。
ちなみに、本法と一緒に施行規則という、補足みたいなのがあったりするのでそこも予習が必要です。わかる問題が出てよかったです。
試験を終えて
口述試験が終わったら、自分で言うのも何ですが、けっこう手応えがあり、また、落ちる人はなかなかいないというようなことも聞いていたので、とりあえず大丈夫だろうと安心していました。とはいえ、やはりある程度は勉強していかないといけないと思います。
実習を超真剣にやるか、問題集を、丸暗記でないにしても自分の頭で理解しておくことは必要です。
試験官の方は、ゆるい雰囲気で、こちらも肩肘を張らずできましたけど、質問については突っ込まれるという印象でした。船乗り経験者(決めつけ笑)なので実際に現場のことを細かく質問されました。
でも、船乗りの方のほうが、こちらの伝え方が拙くても汲んでもらえるのでいいですよね。
たまにヒントを出してくれたり、後から言い直しても良かったり、落とそうと思ってやってない感じはありました。
私たちは卒業したてということで、実践的な問題は全く出ず、学生が知っているような基礎的なことしか聞かれませんでした。多分、そうやって受験者の立場も考えて質問をしているのだと思います。
口述試験を終えて思ったのは、やはり、言われている通り、普通に勉強すれば落ちないということです。なので、これから受ける方は怖がりすぎる必要はないと思います。基礎的なことができれば、とりあえず私の受験した会場では受かるでしょう。
答えられない問題は当然あったのですが、堅実に解答していけば答えられる問題は必ずあります。特に、答えが複数ある問題もあるので、いくつか絞り出せるだけ答えることで点を取っていけると思います。
しばらくしてから結果が発表されたのですが、しっかり合格していてよかったです。合格したら、免許を申請して、三級海技士の免許を得ることができました!
簡単ですが、こんな感じで、口述試験が行われました。受験が最近だったもので、この記事は割と記憶の新しい中で書けてよかったです。いつかまた、勉強法や聞かれたことについて、詳細に書く機会があればと思います。