【商船学科生が語る!】航海コースと機関コース、どちらを選べばいいの?
船乗りという仕事は、調理の方や事務員さんを除けば、必ず航海士、機関士のどちらかに分類されます。
うちの学校の商船学科でも、2年生から、クラスが航海士になる航海コースと、機関士になる機関コースの2つに分かれます。学生には1年間考える期間が与えられますが、どっちのコースがいいか、どういう基準で選べばいいんでしょうか?今うちの学校の1年生もどっちがいいか悩んでいるみたいです。
そもそも、航海士と機関士ってどう違うのでしょうか?
ちなみに希望が偏った場合、成績によって決めるそうです。
私たちの代は入学当初からもうコースが分かれていました。願書を書く時点で航海コースか機関コースか決めていたんです。しかし、「思ってたのと違う」「あっちのコースにすればよかった」という人が出てきて、最初にじっくりコースのことを知ってから選べるようにしようということでよく考えてから分かれることになったんです。(大人の事情なのでよく知らんが、多分そんな理由だろう)
これで、1年間じっくり迷うことができるようになりました。では結局、航海コース、機関コースはどう選べばいいか、ということをお話しようと思います。
ちなみに私は航海コースで5年間過ごしてきました。
とりあえずぱっと見魅力的なのは航海コース
まず、初見だけで言えばみんな航海コースに憧れます。
暗くてうるさい機関室の中で機械をいじってる機関士と、船橋できれいな景色を見ながら操縦する航海士では、絶対航海士の方がかっこいいし人気なのもわかります。
それで、私たちのときは何も知らない中学生たちはみんな航海コースを志望し、航海コースの希望者がとても多くて倍率も機関コースよりも高かったです。
実利をとるなら機関コース
しかし、航海コースでいいことと言っても、せいぜい「景色がきれい」くらいです。そして、航海コースに入った人で、後から機関に行きたいって人も出てきます。
では、ぱっと見では機械に囲まれ地味そうな仕事をしていそうな機関コースにはどんなメリットがあるのでしょうか?
まず、仕事の面白さです。
航海士は、船をぶつけないように常に気を張っていなくてはいけません。船をが衝突してしまったら信じられないくらいの損害ですからね。
しかし、それに比べて機関コースの人たちはエンジンの様子を見たり整備をして、楽しくお仕事しやすいように見えます。実際、海技教育機構の練習船実習でも航海士の教官はめちゃくちゃ厳しくていつも怒ってるのに、機関士の教官はユニークで冗談とかよく言っててストレスフリーに仕事してそうに見えて、こういうとき機関コースの学生はうらやましいなと思います。
また機会があれば書きますが、航海士の教官の性格のエグさと言ったら、もうほんと軍隊かってくらいめっちゃきつかったです。
次に、就職先の多さです。
機関コースには、船に乗って機関士になるほかに、機械の知識を活かして陸上の工場などで働くこともできます。
それに対し、航海コースはガッツリ船の勉強をするので船に乗らない道に行きにくいんですよね。勉強してみてやっぱり船に向いてないからやめたいっていってもどうしても就職先は船関係になってしまいます。
もちろん陸上の勤務先はありますがそれでも大変狭い範囲の専門科目の内容なので港やコンテナターミナルなど船関係の仕事が主です。
だから、機関コースは航海コースよりも進路の幅が広いんです。
まあ、商船学科に来た以上は船に就職してほしいのが理想なんですけどね。
極めつけは、機関士には無人運転があるということ。
専門用語でM0(エムゼロ)運転といいますが、機関室には機械化が導入され、夜間には無人にできるんです。もし何か異常があれば警報が鳴るようになっています。
その結果、機関士は陸上の仕事と同じように朝から夕方まで仕事をする、という形態をとれるようになりました。
対して航海士は常に人の目で見張らなければならず、24時間、4時間勤務、8時間休憩の不安定なサイクルをひたすら繰り返します。
深夜も変わらず交代で当直があるので普通のサイクルで仕事できる機関士は航海士からすればかなりうらやましいですね。
私の後輩にもM0運転があるから機関コースに行ったって人もいましたね。
航海コースのメリット・デメリット
メリット
きれいな景色が見られる
海の上は、陸で見られないような素晴らしい景色がたくさん見られます。海面も、夕日も、星空も絶品で、これは船乗りならではの感動だと思います。
当直中はそんな場合ではないでしょうが、仕事をしながら自然を満喫できるのは素晴らしいことですよね。
でももちろん、おんなじ船に乗っていれば機関士でも休憩時間に景色はいくらでも見られます。
↑↑ 私が実習中に撮った写真です!
船に乗れる
船が好き!ガッツリ乗りたい!!って人は、多少辛くても航海コースを選びます。航海コースになれば船に乗る選択肢の方が多いですし船の世界に染まっている感じがしますからね。
船に乗ることが好きって人は選択しますね。
かっこいい
単純に、機関コースよりも知名度が高いでしょう(笑)「船長さん」のイメージで想像してもらいやすいとも思います。それに、「職業は航海士です」って言えることはきっととても誇らしいと思います。
私も卒業したら「三等航海士やってます!」ってドヤ顔で言いたいです。私の性格的に恥ずかしくて言えないかもしれないけど・・・。
デメリット
機関コースが寝ている夜間でも当直に入らないといけない
航海士の当直は24時間です。そういうことを知らないで航海コースを選ぶと、私のある同級生とかのようにミスマッチが起こります。
もちろん、一番経験が浅い三等航海士は若干入りやすい時間の当直にはなりますが、仕事は不定期です。まあ、半年間家に帰れない外航船とかに比べればこのくらいの不定期は大きな問題ではないのかもしれませんが…(笑)
危ない仕事が多い
機関士も大きなエンジンを動かしているので危ないことは多いですが、航海士はそれよりも大きな「船」を動かしています。船はそこで暮らす船乗りたちの生活の基盤ですので、船そのものをしっかり動かさないと人命に関わります。そういう意味で責任は大変重いです。
余談ですが、私も乗船実習で学校の50メートルくらいの練習船を自分で指揮をとって操縦したことがあります。
ほんの短い時間でしたし、練習船は私が就職後に乗ることになるであろう貨物船よりもずっと小さく、隣にはキャプテンもいつでも助けられるように見ててくれていたのに、緊張で足が震えて、重圧で押し潰されそうでした。(外洋の実習ならそんなこともなかったですが、その時は狭い水路を通って錨をうつ練習だったので操船が難しかったんです…)
学生の私でもそうなるくらい、自分で船というものを操船することの責任とプレッシャーは大きいです。
ちなみに、普通は入ったばかりの三等航海士が狭い水路や錨を打つ時に一人で船橋で指揮するということはないはずなのでそこは大丈夫です。
陸上の就職の道が狭い
航海コースに行ったら、やはり就職は船に乗る仕事か、船関係の仕事しかありません。基本的には航海士になる会社を推されることが多いです。
どうしても船に乗りたくないって人は希望すれば陸上の会社に就職することはできます。ただ、その場合にはどうしてもコンテナターミナルや運輸会社など、船に関係する会社しか求人がありません。就職できる範囲がとても限られます。女子だと割と陸上企業の希望者が多いです。
でも、船に乗った方が学校で習ったことをふんだんに使えますし、商船学科、ひいては航海コースに入った意味があるというものですよね!
私は女子の中では珍しく、最初から航海士になりたいって決めていました。
それも、国内を回る内航船ならまだ女性も多いですが、外航船の船乗り志望で女子は珍しいかったです。もちろんいない訳ではないですけど。
でも私は外国行って世界を回りたいなって思って外航船を志望していました。
女性は、結婚とか考えたら長いこと船に乗るのはきついのかもしれませんね。私は〜・・・、
まだ学生だし何も考えてない!
・・・訳ではないけど、何とかなると思ってます(笑)
機関コースのメリット・デメリット
基本的に航海コースと逆になってます。
メリット
M0運転がある
やはり、これは大きいですね。夜間当直がなく、陸上とほぼ同じ、昼の時間に仕事ができるというのはとても魅力的ですよね。船の上での仕事なのに楽だし、いいサイクルで仕事できると思います。
陸上にも就職できる
機関コースは機関士になることがもちろんメインですが、船の勉強だけでなくエンジンの勉強というのが多いので、陸上の企業に勤務しても活躍できます。船以外に、物理や熱力学、流体など陸上に就職しても使える勉強が多くあります。
航海コースは陸上企業だとどうしても船関係の職場になりますが、機関コースは工場や電力会社など、全く船に関係のない現場にも求人があります。
だから、船は大変だし家にも帰れないし船に乗りたくない!って人は機関コースなら船に関係ない陸上会社にも就職できます(そんな人はそもそも商船学科に入らないかもしれませんが…)
仕事が楽しそう
普通に機関士の教官とかを見ていて、ストレスフリーで楽しそうに仕事をしているなと感じます。仕事内容も、整備とかボタンを押しての調整とか、すごくやりやすそうです。
航海士は風や波によって操船を変えなければなりませんが、機関コースはボタンとかバルブとか、特徴が決まってるので、見ていても面白そうです。もちろん緊張の瞬間というのも多いと思うので楽そうとか言ったら怒られてしまいそうですが・・・。
でも、船をぶつける心配がないというだけで十分プレッシャーは少ないと思います。
デメリット
外が見られない
機関室は通常、船体の一番低いところにあります。だから、窓などもなく、せっかくきれいな景色のところを走っていても外は見られません。まあでも、休み時間はいくらでも見に行けるんですけどね。
それから窓がないということで閉鎖されている感じがします。ただでさえ油の臭いがするのに空気がこもります。そしてとても暑いです!
うるさい
何万トンもある船を動かしているんですから、機関室の音がとてもうるさいです。プロペラを動かす主機の音もそうだし、船内の電気を作る発電機の音もそうです。
船が止まらない限り、常に耳をつんざくような音がしてます。だから機関士は必ず仕事中に耳栓をしてます。
汚れる
これはイメージ通りだと思いますが、油を扱っているので服が汚れます。だから機関士はつなぎとか、汚れても大丈夫な長袖の作業着を着ています。軍手ももちろん必須です。
この点だけは航海士の方がメリットがありますね。
知名度が低い
船に乗ってます、っていうと私たち商船学科の人は大きく分けて航海士、機関士を思い浮かべるんですが、普通の人は船乗りっていうと航海士を先に思い浮かべます。航海士の方が仕事としては全然有名ですからね。(船乗り自体がマイナーだけどね…)
かっこいいイメージのある航海士に比べて機関士はどうしてもイメージされにくいです。
そういう意味で機関コースは自分の仕事を人に説明するのは難しいと思います。
でも、自分が誇りをもってできる仕事なら、別にいいですよね!
みんなどうやって選んでいるのか
では、商船学科の先輩たちはどうやってコースを選んだのでしょうか。私の周りの商船学科の人がどうやってコースを選んだのか聞いたことを紹介します。
航海士の仕事が好き
これは、航海コースを選んだ人の意見です。
やっぱり船が好きで、船に乗って操縦したいって人が航海コースを選ぶみたいです。私も夜間の当直とかあってもやっぱり航海コースを選んでよかったなって思います。
チャートワークとか嫌
これは、機関コースを選んだ人の意見です。
オープンキャンパスに来て、航海コースの体験もしたそうなんですが、航海計画を立てたり操船したりするのが大変だったそうです。
エンジンをいじくったり組み立てたりすることが楽しかったから機関コースを選んだと言っていましたね。
ちなみにチャートワークというのは、海図という海の地図を見て、船を走らせたいところに線を引き、航海計画を立てることです。海図はノートなどのデザインとしてはとてもかっこいいんですが、使うとなると書いてある情報量が多くて、確かに面倒かもしれませんね。
いかがでしたか?
実は私のクラスは、入学当初からコースが分かれていた学年だったので、クラスメイトはみんなあんまりよく考えずにコースを決めた人が多かったみたいです。
正直、中3で決めろって言われても、なんとなくしかわからないですよね。でも今の代はみんな一年間過ごしてからコースを決められるので、安心ですね。
今、どちらに進んだらいいか迷っている人たちはよかったらこの記事を参考にしてみてください。それから商船学科の先輩たちに聞くのもいいと思いますよ。